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〜ヒップホップが忘れてはならない悲劇と散った天才〜
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「Like Toy Soldiers」
この曲について書こうと密かに思っていたので、今回は記事にしました。ビデオについては後述します。


「ヒップホップ」というと好みが別れるところで、特に日本ではステレオタイプに「ラッパー」とか「ダブダブのファッション」という認知程度で、メインストリームにはなり得ないようです。

しかし、真剣にヒップホップカルチャーについて考えてみると、他のどんなジャンルよりもシリアスかつヘビーな音楽であるということが見えてきます。その中で、抜きにして語る事は出来ない悲しい過去、いわゆる「ヒップホップ東西抗争」についてご紹介します。たまにはヒップホップを聴いてみようかな、というきっかけになればと思います。 


時は90年代、アメリカではストリートの文化だったヒップホップが音楽産業での存在を大きくしていました。
そんな中、ハーレム出身のパフ・ダディ、ディディことショーン・コムズ(米エンタメ界で成功した人物でプロデューサーからMC、俳優やブランドまでを持つ)はヒップホップレーベル、「バッド・ボーイ・エンターテイメント」を設立。ラッパーのビギーことノトーリアス・B.I.G.を獲得。更に当時最高のラッパーと考えていた2Pacを獲得しようとするも失敗に終わる。
しかしノトーリアス・B.I.G.を始めバッド・ボーイの音楽はヒット、一躍存在感を増す。当時西海岸でヒップホップレーベルとして地位を築いていたギャング集団「ブラッズ」出身のシュグ・ナイト率いる「デス・ロウ・レコード」にとって、東からの彼らの台頭は面白くないものだっただろう。そんな中、2Pacがスタジオ入りの際に5発の銃弾を浴びる事件が起きる。その時現場にいたのがノトーリアス・B.I.G.ディディだったといわれ、2Pacサイドがこの事件をバッド・ボーイの陰謀だと疑ったことから東西抗争の煙がたちはじめる。

デス・ロウはレイプ疑惑で服役中の2Pacの保釈金を支払い、彼を獲得する。デス・ロウにはスヌープ・ドッグドクター・ドレーも在籍し、2Pacは一躍ウエストコーストを代表するラッパーとなる。
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2Pac

こうして2人の天才ラッパーを取り巻く状況は徐々に対立の様相を呈してきた。
ビギー2Pacは元々は共演したりもしたが、東西レーベルの対立と時を同じくして対立していく。ビーフ(曲の中でお互いの激しい非難、悪口を歌うディスの応酬)は加熱していき、2Pacは「Hit 'em Up」の中で、「fu○k puffy, fu○k biggy, fu○k bad boys」とノトーリアス・B.I.G.とバッド・ボーイを激しくディスっている。

「2Pac vs ノトーリアス・B.I.G.」というラッパー同士の争いから、「デス・ロウ vs バッド・ボーイ」というレーベルの、更には「東海岸 vs 西海岸」というアイデンティティの争いはギャングをも巻き込み拡大していき、ついに悲劇が起こる。

96年、2Pacは横付けされた白いキャデラックに銃撃され、死亡してしまう。その半年後にはビギーが銃撃され死亡。東西レーベル間を超えた抗争の報復によって偉大なる2人は死亡したのである。
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ちなみに昨年6月、The Gameらのマネージメントを担当していたジミー・ヘンチマンという人物が、2Pac襲撃事件を企てたという旨の供述をしたという。この事件は現在時効となっているが、彼は他にも50Centの取り巻き殺害事件、コカイン取引などの容疑で起訴されている。

その後、Dr.DreJay-Zらにより和解の道を歩み、現在は表立って大規模な対立は見られなくなっている。自身もギャング出身でアメリカ最高のラッパーといわれるJay-Zは、Nasとの激しいビーフを繰り広げていたが和解。「どれだけ誹謗中傷しても、ラップをするもの同士リスペクトしている」という旨の発言をしている。
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Jay-Z

そもそもヒップホップは、ミュージシャンではなくギャングの音楽である事を忘れてはならない。楽器を買い与えられて育つ子供ではなく、幼い頃から犯罪と暴力の中で生き延びるために手を血に染めざるを得ない人々が、抗争の代わりに産み出したものであり、ブレイクダンスなどもそれに同じ。黒人が成功するにはスポーツ選手かギャングかしかなかった、悲しい事実が生み出した音楽なのである。

我々の感覚では音楽的対立からギャングを巻き込んで殺人事件なんて理解できないのですが、ヒップホップカルチャーはそもそも暴力の代わりとして生まれたもので、マイノリティーの暗い歴史がつきまとうものです。かたや日本でのラップやヒップホップのイメージは、こうした歴史的背景ではなく、韻を踏む事やそういった「スタイル」を音楽として昇華したものであり、ある意味で様式美と化している気がします。そうした経緯を想えば、様々な現代音楽の中で最も血なまぐさい成り立ちを持つのがヒップホップなのではないかと思います。

さて、冒頭で紹介したEMINEM「Like Toy Soldiers」についてです。
この曲は、EMINEM/Jay-Z/50Centと、彼らと対立関係にあった陣営との間の抗争について書かれており、もうこれ以上誰も死んでほしくないというEMINEMの心情が吐露されている曲。そしてこのPVで銃撃を受けたラッパーを演じたEMINEMの旧友Proofも、後に射殺されてしまいます。
綺麗なスネアロールが印象的ですが、Martikaという女性歌手の「Toy Soldiers」をサンプリングして使用。

 
ビデオのラストで顔が出てくる4人は殺害されたラッパーたち。
BIG L:24歳の若さで99年に死亡
Bugz:D12(EMINEMも所属するチーム)元メンバー。98年に銃撃され死亡
Biggie:前述 
2Pac:前述


さて、いかがでしたか?恋愛や友情がテーマの曲が溢れる中、あまりにシリアスで痛々しいリリックが突き刺さる感じがしませんか?我々の感覚では理解しきれない苦難が背景にあるとわかって聴くと、世界が違ってくるので、ぜひお気に入りの曲を見つけてみてください。

参考:
「鳥肌が立つほどかっこいい「EMINEM客演曲」前編」
「鳥肌が立つほどかっこいい「EMINEM客演曲」後編」

Itsuki

blog:BLINK811
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